Previous: 序章
Up: UNIX データベース入門
Next: Select
Previous Page: 序章
Next Page: リレーショナル・データベースとは
ソフトウェアがこの地上に生まれてから、それは、有史以前の恐竜さながら、一路、
巨大化への道を歩み続けてきた。自らの重みにさえ堪えかねているその巨体を、一人の
力で持ち上げようとするのは、非常に困難であるように見える。しかし、ソフトウェア
の歴史を振り返ってみると、そこには、巨大なプロジェクトの産物とともに、個人の手
になる、いわば明確に「個人的」な起源を持つ知的生産物が、大きな役割を果たしてい
ることに強く印象づけられることがある。最初のUNIXが、D.RitchieとK.Thompsonとい
う、たった2人の研究者によって書かれたOSであることはよく知られている。本書が主
題とする「リレーショナル・データベース」も、1970年代に、事実上、E.F.Codd一人の
手によって、その理論的な基礎が固められた。UNIXの創始者同様、Coddは、この業績に
よって、1981年のTuring賞を受賞している。
もっとも、今日のソフトウェアのあるものが、今日の自動車や電気製品に比べて、そ
の製作者が明確であるといっても、それは、フォードの自動車やエディソンの畜音機
や、ノーベルのダイナマイトと同じく、相対的なものである。個人的な起源は、巨大な
渦の中に巻き込まれ、やがて消え失せる。UNIXも、リレーショナル・データベースも。
既に70年代初頭に、Coddが理論的な基礎を築いていたのだが、彼の理論に基づいた
リレーショナル・データベースがコンピューター上で稼働を始めたのは、70年代の後半
になってからであった。IBMのSystem R や、カリフォルニア大バークレーのINGRESが、
リレーショナル・データベースのプロトタイプとしてこの時期に開発されている。
しかし、リレーショナル・データベースが、広く世界に認められる画期となったの
は、1983年、IBMが、System Rをベースにした"IBM Database2"、いわゆるDB2を発表し
たことによってである。80年代には、新規に開発されるデータベースのほとんどが
リレーショナルなものとなり、Coddの理論モデルは十数年の後に、市場においても
圧倒的な成功を収めることとなったのである。